第2回(2003.11.30) 
フィードバック(1)
 

フィードバックその1〜ネガティブフィードバック

◆コーチングとフィードバック
 IT系のプロジェクトでは、「プロジェクトマネージャーはコーチングスキルを!」という声が高い。コーチングとはスキル習得中の人に対する支援の方法であり、これはある意味で今の業界の実態を反映しているので、真剣に考えるべきことである。しかし、本来、プロジェクトは一定のスキルレベルにある人の集団であることを考えると、プロジェクトマネージャーには、コーチング以前にフィードバックのスキルが必要にある。

 フィードバックとは、「相手の行動に対して自分の意見を伝える指導法」であり、問題行動を指摘するネガティブフィードバックと、良い行動を指摘するポジティブフィードバックがある。

◆読者アンケートにみるフィードバック

 11月に読者アンケートを行った。中間報告でも報告したように、たくさんの方が自由記述欄に意見を書いてくださった。特に、今の活動の改善につながる意見は貴重であり、ありがたかった。

 と、同時に感じたことがある。それは、プロジェクトマネージャーとして活躍するには、もう少し、フィードバックのスキルを身につけた方がいいと思う人が多いことだ。例えば、
 「文章が読みにくいので、読みやすくしてほしい」

という意見があったとしよう。この意見が的を得ていても、このようなフィードバックを受けても改善されることはあまり期待しない方がよい。

 確かに、心構えとして、心がけようとは思うだろうし、そうすべきだ。いわゆる精神論である。精神論が不要だというつもりはないが、精神論だけで大きく改善されることは期待できない。

 ところが、例えば、「戦略ノートの第46回はカタカナ単語が多かった」と指摘をされ、「そのため、1時間ほど奮闘したが、この記事はぜんぜん理解できず、時間を無駄に使ってしまった」という「結果」を指摘をされたとしよう。併せて「今後はカタカナを減らして、ちゃんとした日本語を使ってほしい」という「期待」をされたとする。

 このように指摘されると、まず、当該の記事を読んで、何がまずいかを確認するだろう。そして、指摘に納得すれば、今後は期待に沿えるようにしようと思う。その上で、この指摘から、カタカナだけではなく、専門用語はできるだけ平易な言葉で置き換えようとかするだろう。

◆フィードバックは具体性が「命」
 はじめの例とあとの例は何が違うかお分かりだろうか?「具体性」だ。論語に、孔子と弟子の子貢の、

「子、子貢に問いて曰く、汝と回と孰れか愈れる。対えて曰く、賜や、何ぞ敢て回を望まん。回や、一を聞いて十を知る、賜や、一を聞いて以て二を知る。子曰く、如かざるなり、吾と汝と如かざるなり。」

という会話がある。

ここから「一を聞いて十を知る」というのは日本では聡明なたとえとして使われている。事実そうだと思う。上の例で、「一を聞いて十を知る」というのは、前者ではないことに注意しておこう。「一」というのは「具体的な一つのこと」なのだ。後者が「一を聞いて十を知る」ということなのだ。

 ところが、多くのプロジェクトマネージャーの行動を観察していると、抽象的な指摘をして十を言ったつもりになっている人が結構多い。抽象的な指摘は人に何も与えないが、一つの具体的な指摘は、最低でも一つ、相手が顔回(孔子の一番弟子)クラスであれば、十を気づかせることになるという真実をもう一度、再認識してほしい。

 ここにフィードバックというヒューマンソフトマネジメントスキルの本質がある。

◆ネガティブフィードバックの進め方
 フィードバックの一つである、ネガティブフィードバックは一般的には、

 (1)問題行動を指摘する
 (2)問題行動によりもたらされるよくない結果を指摘する
 (3)今後どういう行動をとってほしいかを伝える

という3つのステップで行う。

 そこでもっとも大きなポイントは、上で述べたように「具体性」である。(1)、(2)、(3)とも具体的にフィードバックしないと効果がない。また、問題行動の直後に指摘することも、具体性(実感)を増すという意味で重要だ。

 次に重要なのは、相手を尊敬しながら、指摘すること。叱責してはだめだ。尊敬が難しければ、敬語か丁寧語を使うだけでもよい。

 さらに、問題行動そのもの、あるいは問題行動がもたらす影響は複合することが多い。そのような場合、問題行動に優先度をつけて、一度にすべてを求めないという姿勢も重要だ。

 まずは、このようなネガティブフィードバックのスキルを身につけよう!次回はポジティブフィードバックについて解説する。
◆お奨め図書
 ロッシェル カップソフト・マネジメントスキル―こころをつかむ部下指導法,日本経団連出版(2003)
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読者からのコメント
「フィードバックとは、「相手の行動に対して自分の意見を伝える指導法」であり、問題行動を指摘するネガティブフィードバックと、良い行動を指摘するポジティブフィードバックがある。」
これは,間違いですね.
ネガティブというのは得られた出力をフィードバックしたとき,その逆向きの入力をあたえるという意味でネガティブ.ポジティブはその逆.
問題行動の指摘が主観的にいいか,悪いかは関係ない.
制御工学関係者(33歳・大学関係)
プロジェクトマネージャーが主観的によいと思う行動に対してネガティブなフィードバックをかけるということは考えにくく、また、逆に、悪いと思う行動にポジティブなフィードバックをすることは考えにくいです。
したがって、ヒューマンソフトマネジメントでは、フィードバックを説明のような意味で使うのが一般的です。
好川@制御工学出身

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