第3回(2004.01.15) 
フィードバック(2)
 

◆ポジティブフィードバックは難しい

 前回はネガティブフィードバックについて説明した。今回はポジティブフィードバックについて説明する。

 普通、フィードバックというと行動を正すネガティブフィードバックをイメージするが、そのくらい、ポジティブフィードバックは行われていない。確かに、研修などの場のように「いかにも」といった状況が作られると、うまくできる人は多いし、仕事の中でも報告に来た部下をねぎらうというのは結構やっている。

 ところが、プロジェクトの中でポジティブフィードバックをうまくできる人は決して多くない。ラインの中で、報告されたことについてほめるのと、プロジェクトの中でほめるのは根本的といっていいくらい、意味が異なる。

 ラインでは、ジョブが明確であり、求められる行動も、成果も明確である。何をやればよいか明確であり、一つの仕事のプロセスでもほめることはできる。ところが、プロジェクトでは、メンバーの行動に対して、よいかどうかの判断をすることそのものが難しい。相当、熟考しないと判断を誤ることがある。

 もともと、日本人はポジティブフィードバックが下手だそうだ。実際に、著者の10年足らずの会社生活の中で、中途でほめられたという記憶がない。結果がよければほめるし、なぜか、能力についてもほめる。

 長々と述べてきたが、何が問題かというと動機付けである。ポジティブフィードバックなしでは、動機付けができないのだ。動機付けの方法として、成果をベースにした動機付けの方法はいろいろある。しかし、プロセスで動機付けをする方法は意外と少ない。その貴重な方法の一つがポジティブフィードバックなのだ。

◆ポジティブフィードバックの進め方

 では、ポジティブフィードバックはどのように進めるのか?ポジティブフィードバックは一般的には、

 (1)望ましい行動を指摘する
 (2)望ましい行動によってもたらされるよい結果を指摘する
 (3)今後どういう行動をとってほしいかを伝える

という3つのステップで行う。ポジティブフィードバックの場合も、ネガティブフィードバックと同様に、「行動の具体性」が命である。褒められても、具体性がなければ白けるだけだ。

◆良い結果を探すコツ

 ポジティブフィードバックの場合、よい結果をマメに探すことが重要だ。よくない結果というのは些細なことでも、気がつくものだが、プロセスの良い結果を探しだすのは難しい。なぜか、うまく行って当たり前だと考えているからだ。

 プロジェクトはそもそもそうである。計画通り進み、目的を達成できて当たり前。スケジュールが遅れたり、予算オーバーしようものなら、ケシカランという話になる。ところがメンバーからしてみれば、アクティビティを計画通りに行うことは大変な仕事である。

 つまり、うまく行って当たり前ではなく、本人の努力なしにはうまく行かないという発想でプロジェクトをみることが大切なのだ。すると、良い結果はいくらでも見つかるし、その結果を引き出している行動を褒めればよいのだ。

 エンジニア系のマネージャーは、小さな結果で相手を褒めるのは失礼だという考えの人がいる。これはこれで一つのスタンスだろう。しかし、褒められて悪い気がするものはいない。どんなに容易なタスクでも達成して、期待通りだと褒められればうれしいものだ。

◆最後に改善すべき点を指摘する
 マネジメントとしてのポジティブフィードバックが重要な理由は(3)の行動にある。つまり、一旦、褒める。そして、これからどうして欲しいかを明確にするのだ。もちろん、ケチのつけようがなければ、この調子で行こうという励ましだけをすればよい。しかし、多くの場合、改善点があるものだ。設計メンバーのアクティビティが予定通り完成したとしよう。このアクティビティが予定通り終わるには目的達成の重要な一里塚だと褒める。その後で、例えば

「もっと開発メンバーと話をしながら進めれば、開発作業が楽な設計になり、君も手戻りがなくなって楽になるんじゃないか」

といったアドバイスを与える。実は、これはネガティブフィードバックなのだ。

 一つの行動にはよい部分と悪い部分(改善できる部分)が同居しているものだ。ネガティブフィードバックをしたいときには、まず、問題行動の中で褒めるところを探して、ネガティブとポジティブを併用する。ポジティブフィードバックをする際には、さらに改善できる点はないかと一生懸命探す。

 これによって、メンバーのモチベーションを維持するところがポイントなのだ。上に述べたようにプロジェクトの中の行動の多くはプロセスとして評価しにくい。しかし、メンバーが動機付けられていると、万が一、フィードバックしたプロジェクトマネージャーの判断が誤っていたとしてもプロジェクトは悪い方向には進まないだろう。動機付けられたメンバーが是正してくれるからだ。

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