第125回(2006.12.05) 
プロジェクトの成果を大きくするあいまいさ

◆「曖昧さに耐えろ。されど曖昧になるな」

前回はプロジェクトにおけるあいまいさの許容について書いた。日立エンジニアリング・アンド・サービスの堀内さんがたいへん印象的なコメントを下さった。堀内さんは改革タスクのリーダーに使命されたときに上司から「曖昧さに耐えろ。されど曖昧になるな」といわれたそうだ。そして、これを座右の銘として今でのその奥義を極めようとされているそうだ。堀内さん、たいへん、貴重なお話、ありがとうございました。堀内さんのコメントの全文はこちらに掲載させて戴いています。

第124回 あいまいさを許容する

堀内さんのコメントを読んで、日立、あいまいさというと連想から、頭に思い浮かんだのが名内泰藏さんだ。直接の面識はないが、昨年、今年と2年続けて、体験談に基づく非常に質の高いプロジェクトマネジメント論の書籍を出版されている。

あいまい性を許容する

名内さんのマネジメント論もまさに「曖昧さに耐え、曖昧にならない」ものだ。


◆あいまいさとの共存が許されない組織!?

このブログ記事にもチラッと書いたが、僕は鉄道技術研究所でMARS-1(国鉄のみどりの窓口のシステム)の開発の中心者だった大野豊先生の指導を受けていた時代があって、そのおかげでマルス(国鉄のみどりの窓口のシステム)の関係者に何人もお会いしたことがあるが、みなさんがくちを揃えて言っていらっしゃることがこのあいまい性との共存の話だった。オープンシステム、ネットワークコンピューティングが普及してきた今でも、一から(今ある知見なしに)構築するとなるとこのシステムはそんなに易しいシステムではないと思われる。当時でもそうだったように、技術検証(研究)をしながら進めていっても、実際に想定していない条件が出てきて、それが新しい技術を必要とするというサイクルはあまり変わらないように思う。するといやでもあいまいさを共存せざるを得ない。

あいまいさへの対処を考えるときにもっとも重要なポイントは、前回かいたようなあいまいさの存在を認めることだと思う。これはプロジェクトマネジメントの問題であるが、プロジェクトマネジャーだけの問題ではない。

例えば、商品開発のプロジェクトを考えてみてほしい。市場はぼんやりとしているが、直感的にいけそうなので、どうしてもこの商品を開発したいという想いがあったとしよう。あなたはきっと、ROIを(ウソとはいえない範囲で)甘めに見たり、あるいは、効果を甘めに見ようとするだろう。Webシステムの開発で、これから成長しそうだという直感がありどうしても受注したいが、社内の受注基準をクリアできていないとしよう。きっと見積もりを加減して受注しようとするだろう。


◆ポイントはプロジェクトスポンサー

このようなことがなぜ起るかというとあいまいさやリスクの存在が組織が許さないからだ。なぜ、組織が許したくないかという点になると、リスク許容度のような組織文化の問題もあるが、業種を問わず多くの組織で見受けられる理由はシニアマネジャーがプロジェクトに本来的な意味でかかわりたくないことだ。堀内さんのコメントにあるように「自由にやってよい」とプロジェクトマネジャーに言うには本気でプロジェクトに関わっていかなくてはならない。しかし、現実にはこのような関わり方をしたくない人が多数派だ。ステークホルダとしてプロジェクトに口出しはしていたいが、プロジェクトスポンサーとして当事者にはなりたくない。

プロジェクトスポンサーがこのようなスタンスだとあいまいさとは戦わざるをえなくなる。共存はできないだろう。

プロジェクトであいまいさの存在を許容したい理由は一つだけだ。プロジェクトの成果を少しでも大きくすることである。しかし、このような組織マネジメントの問題がプロジェクトのあいまいさを排除し、プロジェクトの成果を小さくしている。

果実の味を決めるのはプロジェクトマネジャーの力量である。しかし、果実の大きさを決めるのはシニアマネジャーの力量だ。大きくて甘い果実を作るか、小さくても甘い果実を作るか、大きくても大味な果実を作るかは企業の戦略の問題だ。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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