第152回(2007.07.17)
プロジェクトマネジャーの役割と組織の役割

◆150回の復習

151回は事情によりちょっと別の話題をしたので、今回は150回の続きになる。

ちょっとだけ復習しておく。150回では、顧客の声に応えるためには

・チーム育成
・プロセス改善
・ストレッチゴールに対するリスクマネジメント

の3つが必要であり、これを如何に実現するかが問題になることを述べた。

第150回 顧客満足の達成に必要なもの
 
今回はこれがどのような問題であるかを考えてみたい。


◆見積もりの根拠はどこにあるのか?

この話の本質はどこにあるのだろうか?PMBOKにはチーム育成というプロセスがある。いくつかのプロセスの中にプロセス改善というのが含まれている。だから、プロジェクト(マネジメント)の役割かというとそうとは言い切れない。

この問題は見積もりという作業に大きく影響している。一般的に、組織がプロジェクトマネジャーにプロジェクトを任せるときに、QCDの根拠になっているのは、既存のプロセスの生産性であることが多い(もっとも、多くの場合、システム開発プロジェクトの製造工程を除くとそんなに明確な生産性メトリクスはないことが多い)。

しかし、実際には既存の生産性だけでは顧客の要望に応えられない、あるいは、経営上の要求との両立ができないということが多い。このような場合にはどうするのか?


◆見積もりのギャップを埋める

仮にプロジェクトとしては組織から与えられる目標をクリアすることが任務だと考えることにしよう。すると、組織としては、

 ・達成可能でかつ、戦略目標と整合するプロジェクト目標を如何に与えるか

という部分が最大のポイントになる。このためには、組織として継続的な業務プロセスの改善に取り組み、また、改善目標をプロジェクト目標のストレッチの度合いと整合させ、そのプロジェクトにおける実際の改善活動に対してコミットすることが不可欠である。

例えば、組織プロセスとして調達プロセスがあったとしよう。プロジェクトでは部品を設計して、調達部門に調達を依頼するとしよう。もし、この調達プロセスがスケジュールのボトルネックになっていたとすると、例えば、設計と調達をコンカレントに行うようなプロセス改善をしてやるといったことである。そして、実際に、当該プロジェクトにおいてそのような業務プロセスを確立し、(場合によってはいくつかのプロセスで評価し、)組織全体にロールアウトをしてやる。


◆改善活動のガバナンスは組織にある

プロジェクトのガバナンスはプロジェクトにあるが、この改善に関するガバナンスはプロジェクトにおくべきではない。実際の作業はPMOに代表される業務支援部門が行うとしても、ガバナンスという点では事業部長とか、シニアマネジャーなどがコントロールしながら、組織の改善への取り組みとして取り組んでいくべき課題である。

ライン組織でプロジェクトを遂行している企業では比較的うまく行っているケースもあるが、総じていえば、今の状況はプロジェクトマネジャーへの権限委譲が行き過ぎており、そのために、適切な目標が設定できず、結果として顧客満足も、経営的な成果も得られていないというケースが多い。


◆正しいプロジェクトを正しくやるだけでは、あるべき姿は実現できない

この問題は、

 Right project done right

では片付かない問題である。Right Projectというのは現状をベースにして適正であるに過ぎず、ここに上に述べたような組織能力の向上を含めないと、戦略的なプロジェクトや、戦略的プロジェクトマネジメントは実行できない。つまり、あるべき姿を実現できない。これでは、プロジェクトマネジメントをしているとはいえない。

あるべき姿を実現するためには、Rigth projectの定義を done right の方法を変えることによって調整していく必要があるのだ。

我々は、この部分を

 Right Combination 

と呼んでいるが、顧客の声を耳をふさぐことなく聞き、真の顧客満足を達成するには、プロセス改善を中心にして、適正な目標と仕事のやり方を整合してやることが不可欠である。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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