第158回(2007.09.04)
組織の問題をプロジェクトで抱え込まない

前回、

プロジェクト環境=制約条件+前提条件

という話をした。

 第157回 前提条件と制約条件の不思議な関係
 

◆前提条件と制約条件にこだわる理由

この話にこだわる理由は、この条件に対する合意をすることをせずにプロジェクトを発進していることが多いからだ。

というよりも、現実問題としていえば、組織の事情をすべてプロジェクトが制約条件として受け止めてしまっている。プロジェクトマネジャーも組織の一員なのだから当たり前だろうという意見もあると思うが、結果として、できないことを受け入れることは組織にとってよいことではない。プロジェクトマネジャーはここをよく認識しておく必要がある。

ちょっと脱線するが、顧客の要求をそのまま、受け入れ、結果として余計なものをつくり、「ユーザにとっての混乱」という、要求を断るよりは大きな損失を与えているSIプロジェクトは少なくない。なぜ、このような問題が起こりやすいかというと、プロジェクトの受注直後で顧客理解が不十分であることもさることながら、顧客との信頼関係の構築のためにきちんと議論しにくいということがある。実際に、この場面はうまく交渉をしないと顧客との関係が悪くなってしまう。


◆組織の問題をプロジェクトが被るべきではない

この話と組織の事情を制約として受け止めてしまうというのは本質的に同じことだ。顧客の方は、最後はビジネスだと割り切れるが、組織の方は自らの首を絞めることに他ならない。

何度も引き合いに出すが、例えば、リソースの調達という問題がある。いくら人手不足だからといって、この問題をプロジェクトが制約条件として受け入れてしまうというのは感心しない。顧客からの要求で無理っぽい納期や金額で受けて、プロジェクトに制約だといって渡すというのとは問題の質が違う。

つまり、納期やコストは組織全体として受け入れるべき制約条件であり、それに対して誰が全力を尽くすべきかというとやはりプロジェクトである。上位組織はリスクマネジメントなどの側面支援が主な役割になる。

ところが、リソースの問題は組織として受け入れるべき問題だとは言いがたい。上位組織、あるいは、リソースマネジメント組織の問題である。ここをはっきりさせておかないとこの問題が再発する可能性があることはもちろんだが、プロジェクトレベルでリソース調整をやるようになってくると最悪である。組織全体として、最適なリソースの活用、適材適所ができないという事態が生じることが多いからだ。


◆プロジェクト憲章を使って上位組織に訴えていく

では、どうすればよいか。ことはプロジェクトマネジャーから見ると上司に当たる人のやり方の問題である。

日産の改革をしたカルロス・ゴーンは、改革の中において、変わらないマネジャーに対しては、リーダー(部下)がひたすら変わるべきだということを訴えていくしかないといっているが、やはり、この場合も同じことが言える。愚直に訴えるしかないかもしれない。

この訴える場面(ツール)として適しているのが、プロジェクトの前提条件と制約条件を決めて合意するプロジェクト憲章である。プロジェクト憲章の作成を通じて、組織の調整すべきべきこと(前提条件)とプロジェクトが頑張るべきこと(制約条件)について合意してからプロジェクトに着手すべきである。

この場面を逃してプロジェクトに突入してしまうと、プロジェクトは前線に立つ。ゆえに、目的に達成のために正論を言っていられない立場におかれる可能性が多い。その点をよく考えて、対応していく必要があるだろう。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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