第198回(2008.11.04)
プロジェティスタのプロジェクトマネジメント(6):
コンセプト創りを伴うプロジェクトのマネジメント

◆マネジメントのパラドックス

前回はコンセプトを作るプロジェクト(コンセプト創造型プロジェクト)のマネジメントについて述べた。今回は、この問題をもう少し深堀して、コンセプトを作るプロジェクトのマネジメントの原理について考えてみたい。

答えから先にいえば、コンセプト創造型プロジェクトでは、メンバーのモチベーションやコミットメントの高さが生命線である。スーザン・ブロックとフィリップ・ホワイトリーの書いた「フラット化する世界のマネジメント」はプロジェクトマネジメントに多くの示唆を与えてくれる本だが、その中にこんなフレーズが出てくる。

自由でいたい。また、導かれたい。それがマネジメントのパラドックスである。


◆アカウンタビリティが鍵を握る

コンセプト創造型のプロジェクトマネジメントは、このパラドックスがうまく解消できないとうまく行かない。このパラドックスの本質は、権限委譲と統制のバランスを如何にとるかというマネジメントの本質的な課題である。

この両立の鍵を握るのは、アカウンタビリティである。つまり、ビジョンを明確にした上で、ビジョンに向けて走れるように権限委譲を進めていく。ここまではプロジェクトマネジメントの基本である。通常のプロジェクトマネジメントであれば、この状態で報告ルールを作ることが多い。つまり、権限委譲をするが、説明責任は「課す」。

これについては、

第130回 コミットメントのプロセスはあるか

以降でかなり丁寧に論じているので、参考にしてほしい。


◆アカウンタビリティをマインド化する

さて、コンセプト創造型のプロジェクトマネジメントの話に戻るが、アカウンタビリティを確保するためのルールは作るべきではない。平たく言えば、報告をいつするだとかということを決めるべきではない。説明責任をとることを前提に権限委譲をするという態度を貫き、アカウンタビリティを高めるための原理を持ち込み、ある意味で本人に任せるべきである。つまり、アカウンタビリティをマインド化する。

その原理とは、商品開発プロジェクトであれば、たとえばエンドユーザへのコミットメントであったり、株主へのコミットメントであったりする。これらのステークホルダに対して、プロジェクトの実施に当たって行った約束をしっかり果たすことを行動規範にして、その行動規範の中でアカウンタビリティを果たしていく。

このように、アカウンタビリティの確保をルールを作って自動的に実現するのではなく(これはアカウンタビリティとはいえない)、メンバーの一人ひとりがエンドユーザ(市場)にコミットすることにより、自発的にプロジェクトマネジャーに報告すべきことを報告し、相談すべきことを相談する状況を作ることによってアカウンタビリティを確保していく。


◆フィードバックと対話が重要

では、そのためには何をすべきか。まず、真っ先にすべきことは、メンバーの一人ひとりにアカウンタビリティがあることを自覚させることである。報告をする義務はあると思っているが、アカウンタビリティがあるとは思っていないメンバーを一人ひとり変えていき、自分が説明責任を果たさないことによって、ステークホルダがどのような影響を受けるかを考えさせる。ただし、これは、キックオフミーティングで一度言えばよいという話ではない。キックオフミーティングはもちろんだが、どちらかといえば、そのあと、プロジェクト活動の中でフィードバックによって変えていく必要がある。

たとえば、進捗報告を見ていると、おざなりというか、何のために報告しているのか分からないような報告が多い。このような報告を徹底的に正していく。つまり、自分の状況の説明をすることの必要性、重要性が分かるようなフィードバックを全体ミーティングの場で徹底的に繰り返していく。同時に、問題解決について対話を繰り返していく。

これによって、メンバーのアカウンタビリティに対する意識を変えていく。この方法がもっとも効果的である。

日本の従来のやり方は、形(プロセス)から入って、形を守っていくことによって、形の持つ意味を理解させ、意識を変えるというやり方だった。この背景には守破離の思想があるのではないかと思う。このようなやり方の有効性の議論はおくが、少なくともメンバーがダイナミックに変わるプロジェクトでは通用しない。

このダイナミズムの中でアカウンタビリティを定着させていくには、対話的なアプローチの方が有効である。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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