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第2回(2002.05.04) 
スコープ考
 

スコープという言葉は聴きなれない言葉であるが,とても大切な概念である.言葉でいえばクリックリファレンスにも書いたように「プロジェクトとして創出される成果物と役務の総体」である.ところが成果物という言葉も役務という言葉もさらに説明が必要なくらい,分かりにくい言葉である.

 ひとつの例としてシステム開発で「仕様が変わった」とよくいう.熟練したプロジェクトマネージャーの話をよく聞いていると,仕様というのを単に「システムの仕様」という風に言っていない場合が多い.ひとつの意味は文字通り,システムの仕様,つまりは「成果物」が変わるという意味である.計画時点では成果として予定されていなかった機能がシステムに追加になったりして,成果物が変わるという意味である.もうひとつの重要な意味は,予定されていなかった機能が成果物に加わることにより,成果物を生み出すために必要な作業が変わることになる.いわば,プロジェクトの仕様が変わるという意味で仕様という言葉を使っていることに気づかされる.「仕様が変わる」という意味は,少なくともこの2つの意味を含んでいるように思う.これがスコープなのである.

PMBOK(R)ではスコープをプロダクトスコープとプロジェクトスコープの2つに区別している.プロダクトスコープが成果物(システム開発ではシステムの仕様),プロジェクトスコープが成果物を得るための作業(システム開発ではプロジェクトの仕様)である.仕様という表現はシステムだけではなく,他でも見受けられる.例えば,工事の仕様という.工事の仕様というのはひとつはどういうものを作るのかをさしており,一方で工法や作業方法などの工事の全般的なやり方を指している.これも全く同じである.

 スコープがプロジェクトマネジメントの中で持っている役割は非常に大きい.プロジェクトのマネジメントの対象であるコスト,スケジュール,品質,リスクのどれをとっても,それだけが変わることはない.コストが変わればスケジュールも変わるし,品質も変わるし,リスクも変わってくる.すべてが連鎖的に変わる.これをスコープの変更ということで一元的に管理している点がPMBOK(R)の優れた点である.常にスコープに注意を払い,スコープに変更があった場合,コスト,スケジュール,品質,リスクなどの変更管理を行うという形で体系的にプロジェクトマネジメントを進めていくことができる.

 コストやスケジュールを整合性を持って管理することは非常に難しい作業である.なぜなら,プロジェクトの規模が大きくなればなるほど,プロジェクトが見えなくなってくるからである.コストにしろ,スケジュールにしろ,その変動がプロジェクト全体にどのような影響を与えるかが見えにくくなる.下手なマネジメントをしているとこれらの要素の相互関係の調整に悩まされてプロジェクトは空中分解してしまう.これを見えやすくするには注視点があった方がよい.これがスコープだと考えてもよい.

 PMBOK(R)の生い立ちを考えると当たり前のことであるが,ソフトウエアや工事の例から分かるようにもともとこれらのマネジメントではプロダクトとプロセスを区別してマネジメントをしている.これをスコープという概念を導入してプロセスとプロダクトの整合性の取れたマネジメントをしようというのがスコープであるといえよう.

 ではスコープを管理するのはどうするか?PMBOK(R)でもそうだし,他の手法でもそうであるが,WBS(Work Breakdown Structure)とOBS(Organization Breakdown Structure)という手法が中心的に用いられる.を見て欲しい.ECサイトを構築するプロジェクトのWBSの一部である.WBSは論理的な方法である.つまり,プロジェクトは成果を得ることが目的なので成果は分かっている→成果物を細かくしていく→成果物ごとにその成果物を得るのに必要な作業を定義していく→プロジェクトですべき作業がすべて洗い出せる というロジックになっている.

 成果物が変わると,WBSが変わるので,WBSを管理しておけばスコープも管理できるという理屈である.

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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