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第25回(2002.11.18) 
リーダーシップ考(4)
〜サーバントリーダーシップ
 

◆プロジェクト化の目的の重心
 前回、プロジェクトマネジメントの普及とともに、目的も多様化しているという話をしたが、その変化の本質をひとつ言えば、計画的大規模業務の遂行から、組織におけるエンパワーメントに重心が移ってきているということだろう。

 以前、「エンタープライズプロジェクトマネジメント事始」もこの議論をしたが、ものづくりにおいても、サービス提供においても、経営環境のスピード化は確実に業務に従来以上の不確実性をもたらしている。「顧客の求めるものがどんどん変わっていく」という不確実性である。この不確実性は、いわゆる「技術の新規性」などとは異なる性格を持つものである。技術の不確実性を伴うプロジェクトの主眼は、可能な限り早く、その不確実性を除去し、目的を達成することにある。しかし、顧客要求の変化という不確実性は除去することはできない。追従していくしかない。

◆80年代の主眼は統制
 そのように考えると、プロジェクトはこの不確実性に、現場への権限委譲により対応していこうという方法であると考えることができる。この点で、70〜80年代のプロジェクトと90年代以降のプロジェクトは違う。70〜80年代のプロジェクトは、業務における不確実性を経営に影響を及ぼさないようにするために、日常的な経営活動と切り離すためにプロジェクトが結成されている。言い換えると、対象業務はもし失敗すれば経営に重大な影響を与えるような業務であり、その意味でプロジェクトマネージャーは経営的にもそれなりの地位の人が指揮していたし、また、プロジェクトマネージャーにはラインと同じような統制の権限が与えられていたし、プロジェクトの中にも明確な統制のためのラインが置かれていた。

◆90年代の主眼はエンパワーメント
 これに対して、現在の多くのプロジェクトでは、プロジェクトマネージャーは現場から選ばれることが多く、おのずと位置づけも変わってくる。たしかに、プロジェクトマネージャーの指名という点では、業務命令として行われるケースが多い。しかし、そのようなプロジェクトマネージャーがそのまま機能するかというとそうは行かない。現場でプロジェクトが組まれるということは明確な統制ラインなどは組み込みようがない。極端な場合には、ライン的には下の人間が、プロジェクトではマネージャーになり、上司のマネジメントをするということもあるわけだ(これは日本にはなじまないので、そこで、プロジェクトマネージャーの選抜も年功序列になる)。

◆集団からチームへ
 少し、話がそれるが、プロジェクト組織には、要員が集まっただけの状態(集団)と、それがチームとして機能している状態の2つの状態がある。プロジェクトにおけるチームマネジメントでは、集団をチームとして機能するようにするプロセスが必ず必要である。これも重要なポイントであるので、別途議論したいが、そのプロセスのひとつが、組織的に任命されたプロジェクトマネージャーがリーダーシップを持ったプロジェクトマネージャーになっていくというプロセスである。「ボス」としてメンバーから認められるプロセスである。

◆「ボス」になるプロセス
 問題はこのプロセスをどのように形成すればよいかだろう。戦略ノートでは今まで3回、リーダーシップに関する議論をしてきたが、ニューウェーブマネジメントでは新たなリーダーシップが必要になる。それは、組織から指名されたプロジェクトマネージャーがそのプロジェクトとのリーダーとして、なんかとプロジェクトのミッションのために尽くしたいと強く思い、そして、そのためには自分がやるしかないと「自覚」する。そしてリーダーとしての役割を果たすという一連のプロセスが不可欠である。

 プロジェクトマネジメントブームになって、望ましくないPM像のようなものがよく語られるが、望ましくないPM像は、だいたいこの2つの集約される。ひとつは、「プロジェクトに尽くしたいと思っていない」。もうひとつが、プロジェクトを成功させるためには自分が引っ張るしかないと「自覚できない」。このようなリーダーは、組織からお墨付きを貰ったものとして、メンバーは自分の言うとおりに動くものだと認識している。これではだめである。

◆サーバント・リーダーシップ
 さて、上に述べたようなリーダーシップ概念は、ロバート・グリーンリーフという学者がサーバント・リーダーシップとなずけたものである。どのようなものかを簡単に説明しておこう。

It begins with the natural feeling that one wantsto serve, to serve first. Then, conscious choice brings one to aspire to lead.

これは、ロバート・グリーンリーフがサーバント・リーダーシップの説明をしたフレーズである。

まずは、尽くしたいという自然な感情に始まる。その後、自覚的に選択した上で、導いても行きたいという気持ちになる。

神戸大学の金井尋宏教授がサーバントリーダーシップの説明をするときによく使う例が、子供である。自分の子供が目の前にいれば、まず、その子のためになにかしてあげたいという感情が自然に生じる。しかし、その子供に尽くすためだけに自分がいるわけではなく、ここは自分が引っ張って行かなくてはならないと自然に思うようになるというわけである。この説明はサーバントリーダーシップを言い尽くしているように思う。

◆サーバント・リーダーの条件
最後に、スピーアーズというNPOの主催者がグリーンリーフの考えを整理して、サーバントリーダーの条件というのをまとめているので紹介しておこう。

1.人の言うことがきちんと聞ける
2.同時に共感できる
3.困っている人がいたらそれに対して癒すことができる
4.気づきに訴えることができる
5.何か大きな使命や目標を訴える説得力を持つ
6.そのために自分の夢がきちんと概念化できている
7.先見の明がある
8.執事としての役割ができる
9.尽くすということを通じて、人々の成長にかかわる役割を持つ
10.コミュニティを作る

◆チーム=コミュニティ
10.にコミュニティを作るというのが入っていることに注目してほしい。ニューウェーブプロジェクトマネジメントで求められているチームとはコミュニティなのである。

【参考文献】
金井尋宏「経営理念に導かれたリーダーシップ」、季刊イズミヤ総研、Vol.50
こちら に抜粋があります。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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