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第266回(2011.09.27)
プロジェクトリーダーは「スター」を目指せ!

◆スター主義経営

数年前に

ジェイ・ロッシュ、トーマス・ティアニー(山本 真司 , 大原 聡訳)「スター主義経営―プロフェッショナルサービス・ファームの戦略・組織・文化」、東洋経済新報社 (2007)

という本が出版された。プロフェッショナルサービスファームには、「スター」として「個」の力を引き出し「組織」の力に結集させる経営が必要だという趣旨の本だ。

スターという言葉は、昔はよく使われていたが、今はあまり使われない。むしろ、スター「にきしの」といった感じで、ギャグ的に使われる言葉になってきているような感すらある。

ジェイ・ロッシュの本で定義されているスターというのは、「優秀かつ長期的に組織に価値をもたらす従業員」であり、「卓越した個人の能力を持ちながら、チームワークを重視し、企業の利益を最優先で考えるという行動特性を持つ存在」である。ビジネススターとでもいうべき存在だ。

◆スターの登場する環境は整った

こういう発想は、これまでの日本ではあまり、受け入れられなかったように思う。そのような存在がいることはみんな気づいている。というより、部下を持つ立場の人はそのような部下を欲しがる人が多い。しかし、スターとしては扱わないし、扱おうとしても扱う方法がなかった。

そこで、出る杭として打たれるような印象だった。

ところが、日本の企業もだんだん変わってきて、たとえば昇進ひとつとってみても、新卒一括採用こそ変わらないが、課長になるのに5〜10年近い差がつき、40台の前半で役員になるようなケースが珍しくなくなった。もちろん、報酬でも差がつく。

そもそも、能力の高い人材が出る杭に見えた根本的な原因であった終身雇用は崩れ、年下の上司など当たり前になってきた。スターの登場する環境は整ってきたわけだ。


◆プロジェクトにこそスターが必要

そんな環境変化の中で、今、もっともスターが求められているのはプロジェクトではないだろうか。理由は大きくは2つある。

一つはプロジェクトは経営に大きな影響を与える。現状にも大きな影響を与えるが、将来に影響を与える仕事がプロジェクトとしておこなわれる。プロジェクトにスターが出てこなければ、その企業の未来はないといってもよい。プロジェクトに必要なスターはプロジェクトリーダーである。リーダーシップが発揮されないと、未来に対する価値のある仕事はできない。

もう一つの理由は、「プロジェクトリーダーになりたい」人をたくさん生み出していかなくてはその企業のプロジェクトマネジメントは進化しない。そのためには、プロジェクトリーダーがスターになることが不可欠だ。

僕が一番最初にプロジェクトリーダーを経験した25年前には、上司から「プロジェクトマネジャーは目立つな。メンバーあってのプロジェクトだ」と言われた。このように言われた経験のある人は少なくないだろう。今でも、日本企業では同じような価値観があるからだ。

その極めつけがサーバントリーダーシップ崇拝である。これでは、プロジェクトリーダーになりたいと思う人は少ないだろう。


◆スターの要件

サーバントリーダーシップが有効ではないと言っているわけではないが、必要以上にスターを嫌悪するのはスターという言葉の言霊に振り回されているように思えて仕方ない。スター主義経営のスターの定義をみれば分かるように、スターとはカリスマリーダーではない。仕事は一人ではできないことを熟知し、チームワークを重視する人である。逆説的にいえば、今の時代、一匹狼主義に走るような人材は優秀な人材とは言い難い。

ただし、業績の帰着する先はプロジェクトリーダーである。ことさら、手柄を誇示する必要はない。異なるチームで3回ほど、プロジェクトをやって、すべて成功すればプロジェクトリーダーがすごいということになる。

現実をいえばここにプロジェクトリーダーの逃げがある。プロジェクトリーダーとしてスターであるためには、どんなチームを率いても同じように成果を上げなくてはならないが、多くのプロジェクトリーダーは優秀なメンバーを手放さない。もちろん、業績を上げ続けるには、ある程度必要であるが、考えようによっては特定の人材に依存している。

これではスターになれない。

では、どのような態度が必要か?ここでチームマネジメントのスキルが注目されるのだろうが、もう少し、根源的な話である。大雑把にいえば3つの要件があるように思える。まずはプロジェクトを楽しめる人。二つ目はいわゆる人間力がある人。三つ目は、好奇心が強く、新しいことを自発的にできる人。一つ、二つのプロジェクトを成功させるだけであれば、前の2つでよいかもしれないが、長期的に結果を出すには、三番目の要素が欠かせない。


◆リーダーシップパイプライン

ここで、問題になるのは、プロジェクトリーダーのキャリア上の取扱いだ。たとえば、IT業界であれば、管理職になるためのステップになっている会社が多い。すると、長期的に結果を出す必要はない。したがって、新しいことをやりたがらない。

これは間違いだ。スターというのは、キャリアを通じて成果を出し続けなくてはならない。プロジェクトリーダーとしてスターになるというのはその一環に過ぎない。

自身がプロジェクトリーダーとしてスターになることによって、後進も優秀なプロジェクトリーダーになろうと考える。このようなリーダーシップパイプラインがあって初めて、キャリアを通じて成果を出し続けることができる。

このように考えると、プロフェッショナルファームのように専門職として長く仕事をする組織でなくても、スター主義経営というのは成り立つ。

プロジェクトリーダーの方、スターを目指してください!あなたのためだけではありません。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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