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第271回(2012.01.10)
アジャイルの実践条件
◆アジャイル実践のアプローチ

年末最後のネタがアジャイルだったので、年始もアジャイルから。年末にも書いたが、今年はアジャイルの成果が求められる年になるだろう。

アジャイルを実践するアプローチは2つある。一つは適用範囲を限定的にすることである。これがそんなに難しくなく、適材適所に使えばそれなりの効果が得られるし、プロジェクトマネジメント自体の大きな枠組みはほとんど変えなくて済む。アジャイル化するスコープの取り方としては、開発マネジメントにアジャイルを入れるというのが多い。

もう一つは、プロジェクトマネジメントそのものをアジャイルスタイルにすることだ。こちらは、従来のやり方を変えることになるので多少、厄介である。

いずれのアプローチも、カギはプロジェクトガバナンスの確立にある。いくら、顧客主義といっても、プロジェクトガバナンスが確立できなければプロジェクトマネジメントにはならない。

◆アジャイルプロジェクトのガバナンス 3つの壁

アジャイルスタイルのプロジェクトマネジメントを実践しようとしたときに、プロジェクトガバナンスの上で、問題になることが三つある。

一つは見積もりの位置づけである。二つ目はスコープにより統合マネジメントを行うことである。三つ目は、(社内)顧客とチームを組むことである。

逆にいえば、この3つが計画重視型のプロジェクトマネジメントとの本質的な違いだともいえる。アジャイルスタイルのプロジェクトマネジメントを実践するにあたって、これらの問題をどのように整理していけばよいのだろうか?

まず、この3つは完全に独立した問題ではなく、かなり、依存関係の強い問題である。たとえば、スコープ中心の統合マネジメントから考えてみると、だから見積もりは実績ベースでよいし、見積もり値自体にそんなに意味はないということになる。また、スコープ変更の必要性が生じたときに、即座に顧客の判断を仰ぐためには、顧客自身がチームに入っていることが重要である。こういう関係になっている。


◆見積もりの壁

さて、では一つずつみていこう。アジャイルのおける見積もりの位置づけは、そのプロジェクトが実現可能なものかどうかを判断することにある。言い換えると、数値そのものにあまり大きな意味はない。これは、従来の事業の慣行に合わない。商品開発の予算確保も、ITプロジェクトの受注も、見積もりをベースにして行われる。つまり、事業計画化、あるいは受注される段階ではある程度スコープが詰められていることを前提にしている。

この前提が崩れると、見積もりが精緻に行われないと計画や提案ができないということになる。また、受注型のプロジェクトだと、契約の問題も出てくる。

この問題に対して、実務上取るべき方策は、コストやスケジュールの計画と(開発)見積もりを区別することである。従来の方法だと計画は見積もりをベースにして、リスクなどを追加する形で行われる。つまり、目標ではなく、制約条件に近い。だから、正確性にこだわる。

これに対して、見積もりをまったく無視するということではないが、計画はある程度見積もりを配慮した、「ビジネスケース」だと考える。ビジネスケースがプロジェクトガバナンスの起点になる。

これによって、見積もりの位置づけは、アジャイルの原理通り、生産性の実績に基づく数字に変わる。そして、実績ベースの見積もりで、コストとスケジュールの計画の中に入るように、スコープを調整することによって行う。


◆スコープ調整の壁

そのように考えると、次の問題はスコープによる統合マネジメント(調整)である。この話の源流は、人工ベースにある。ITプロジェクトでは人工ベースで提案をすることを前提にしているので、その見積もりができるように要件(スコープ)の仮決めが必要になってくる。そして、契約はスコープベースで行われる。社内プロジェクトでもそこまで厳密ではないにしろ、同じような問題を抱えることになる。

この問題を解消するには、商談の仕方を考え直す必要がある。今のITのやり方はずいぶん無駄がある。極論すれば、人工ベースでプロジェクトを動かしているので、ユーザ企業のシステム部門が必要であるとも言える。

そこで、人工ベースを価値ベースに変える。具体的には要件ベースで行っている取引を、要求ベースに変え、要求に対して価値を決めていく。アジャイルのやり方そのものであるが、そのように進めるためには、情報化投資のROIをもう少し細かなレベルで定義し、要求に対する対価を明確にしていかなくてはならない。

ここが問題の本質であるが、逆にここは顧客側のプロジェクトマネジメントの問題であり、端的にいえば、プログラムマネジメントを導入していく必要がある。米国の様子を見ていると、このような考え方は情報システムをコストから、バリューに変えていくために必須だとみられており、グローバルにそのような方向性がみられるようになっている。

逆に、このような方向性があるので、その枠組みの中でのアジャイルプロジェクトマネジメントが重視されるようになっているというのが正確な言い方である。


◆顧客のチーム参加を必須にする

この2つの問題が片付けは、3番目の問題は自然に片付く。価値をベースにしたスコープ調整を行うプロジェクトであれば、逆に顧客がプロジェクトチームに入っていないという状況は考えにくい。

逆説的にいえば、顧客が入らざるを得ないようなプロジェクトの運営をすることをアジャイルでは目標とすべきだと言える。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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