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第287回(2012.06.22)
プロジェクトを推進するシステムはなぜ変わらないのか

◆システムの一部だけを変えることはできない

かつて、プロジェクトマネジャーの育成をするときに、上位管理者をどうするかということがしばしば、話題になった。プロジェクトマネジャーが一生懸命、新しいやり方を学び、業務の中で実践しようとしても、上位管理者が足を引っ張ることが多い。たとえば、プロジェクト計画書を時間をかけて作成していると、「そんな時間があれば早く着手しろ」と平気で言い切る上位管理者はいまでも少なくない。

この問題は厄介である。次世代のリーダーの育成方法に関して、「ハイ・フライヤー」という本を書いた、南カリフォルニア大学マーシャルビジネススクールのフレーズはモーガン・マッコール博士は

組織というものはひとつのシステムであり、他の部分への影響を及ぼすことなく、システムの一部だけを変えることはできない。ある人が変化を試みているにもかかわらず、属しているシステムが同じ状態であった場合には、その人はジレンマに陥ってしまう。

と指摘しているが、まさに、プロジェクトマネジメントのトレーニングを受け、行動を変えようとした人は、ジレンマに陥っていた。PMstyleでは、半年〜1年かけて行うアクションラーニングによる行動変革を求めるトレーニングをやっているため、この問題にいやというほど直面した。


◆プロジェクトマネジャーが上位管理者になれば変わる

この問題に対して、多くの組織は、上位管理者には触らないでおこうという方針を取った。上位管理者の多くにとって、プロジェクトマネジメントは自分たちが経験していない世界である。頭で理解できる人は一定の割合でいるが、実感として必要だとはなかなか思えないので、彼らを変えることはできないだろうと考えた。この判断は正しいといえよう。

同時に、いま、プロジェクトマネジメントのスキルアップをしているプロジェクトマネジャーが、将来、上位管理者の立場になれば、組織が変わると期待した。

ところがこの期待は見事に裏切られる。プロジェクトマネジメントのトレーニングを受けた人たちは、上位管理者の立場になると、何ら躊躇することなく、プロジェクトマネジメントを捨て、従来の上位管理者と同じ行動をとるようになった。企業の中で、個々人を見れば例外的な人はいるが、企業レベルで考えれば例外なくそのようになっている。

そして、いまだに、プロジェクトの上位管理はうまくいっておらず、それがその企業の失敗プロジェクトの原因になっているケースが実に多い。

誤解のないように言っておくが、プロジェクトの成否に上位管理が大きな影響を与えるプロジェクトは一部である。大方のプロジェクトは、プロジェクトマネジャーがしっかりしていれば成功する。この議論はその一部のプロジェクトに関するものである。


◆プロジェクトマネジメントはコストである

さて、なぜ、こんなことが起こるのだろうか?

一言でいえば、プロジェクトマネジメントとラインマネジャーとしての業績のマネジメントは違うということだ。ラインマネジャーとしては、プロジェクトをどのようにマネジメントしようと関係ない。プロジェクトで予定したスケジュールで、予定した収益を出してくれればいいだけだ。そのように考えると、プロジェクトマネジメントはコストになる。今の上位管理者はPMBOK(R)のマネジメントを知っている人が多いし、PMP(R)の人も少なくない。マネジメントが不要だと考える人は珍しいと思う。

しかし、その上で、プロジェクトマネジメントはコストになり、自分のミッションにとって必ずしも望ましいものではないと考えるのだ。上位管理者がプロジェクトマネジメントに関して必ず、押さえておくべきことは、コストとリスク、変更管理の3つで十分だと考えることができる。


◆プロジェクトマネジャーはビジネスとオペレーションの交点にいる

この問題を解消する方法はあるのだろうか?

まず、最初に認識しておくべき点は、プロジェクトマネジメントは、組織の中でビジネス(事業)とオペレーション(プロジェクトマネジメント)の交わる点にいるということだ。つまり、プロジェクトマネジャーは、ビジネスもプロジェクトマネジメントも見ることが求められる。これが、その上位管理者も同じだと錯覚する原因になっている。

上位管理者は、ビジネスのラインであってオペレーションのラインではない。つまり、プロジェクトのオペレーションについてとやかくいう立場にはないのだ。オペレーションを適切に行うことに責任を持つのは別の役割で、プログラムマネジャーであったり、PMO(正確にはPSO)であったりするわけだ。

つまり、プロジェクトマネジャーは、上位管理者とビジネスの進め方を相談しながら、PMOやプログラムマネジャーとプロジェクトマネジメントの方法を決めて実施していくという役割なのだ。


◆PM、PS、PMOのシステムを機能させる

このように考えると、プロジェクトマネジャーが上位管理者の立場になったらと考えるのはミスリードであり、上位管理者にプロジェクトマネジメントに関わることを期待しないというのがこの問題の解決方法である。

今、なぜ、システムの機能が不十分かというと、PMOの問題が大きい。実は、ラインマネジャーの役割の中に、プロジェクトマネジメントのオペレーションを担う部分がある。プロジェクトの評価をしたり、プロジェクトの定義をする部分である。プロジェクトマネジメントのシステムとしては、ここがきちんとできて、初めて完成する。

上位管理者のプロジェクトマネジメントに関する問題というのは、ここができないという問題で、PMOもあまり機能していない。たとえば、プロジェクト憲章を作るというオペレーションだが、ビジネスと非常に密着しているので、PMOとしては手が出しにくいという事情もある。

だが、ラインマネジャーをプロジェクトマネジメント的な側面から支援し、なんとかオペレーションとして適切に運営されるようにしなくてはならない。

それができると、PMOが存在価値を持つようになり、プロジェクトマネジャー、上位管理者(スポンサー)、PMOのプロジェクトを推進するシステムが変わり、機能するようになる。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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