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第309回(2014.04.18)
プロジェクトの目的はどのように決めればよいか


◆プロジェクトイニシアチブの3つの視座

戦略ノート308でプロジェクト・イニシアチブについて述べたが、プロジェクトイニシアチブのもっとも重要なポイントになるのは、「目的」の決定である。


プロジェクトを行うときには目的が重要であることは常識になりつつある。しかし、目的の定義については十分に成熟しているとはいいがたい。今回はこの問題を考えてみる。

プロジェクトを行うときには、考えるべきステークホルダーが3つある。一つはプロジェクトチームである。二つ目は経営(あるいは戦略)としての目的である。三つめは市場や顧客の視点からの目的である。


◆例

たとえば、こんな状況を考えてみてほしい。

新しい技術を採用して、新しい製品を作るとする。その技術は戦略上、重要な役割を果たす技術であり、何とか成功させたいが、非常に難易度が高く、顧客が求める機能を提供するにはリスクが高い。今回開発する製品における顧客の要求ということだけでいえば、新技術の採用の必然性は小さく、コスト面でも、パフォーマンス面でも従来技術を採用することが適切であると考えられる。チームメンバーは新しい技術の習得に関心を持っているが、リスクがなければという前提である。

3つの視点からの目的を整理してみると、

・プロジェクトは製品をつつがなく開発することを目的と考えている
・組織としては新しい技術の習得を目的としたい
・顧客視点からは、高い機能の製品を手に入れることが目的である

ということになっており、相反している。目的を決めるときに組織はこうで、プロジェクトはこうでという箇条書きとしてまとめる人がいるが、これは不適切であることは相反しているケースを考えるとすぐわかる。そんな目的を決めても実現できないからだ。


◆プライオリティで決めるものいいが、、、

そこで、どうするかという話になるが、何を優先するかという議論になりがちだ。たとえば、今、競合も類似の開発をしているので、ここはスケジュールと提供機能を重視して、技術はあきらめようという風にものごとを決めていく。

確かにこのような決め方も一つの方法ではあるが、よりプロジェクトとしての価値を高めるためには、3つともあきらめないことが望ましい。しかし、この3つをくっつけようとしても、手段が相反しているのでできない。

そこで、統合するという考え方になる。統合の方法はいろいろあるが、もっとも一般的な方法は少し抽象度を上げてみたり、あるいは長期的に考えてみたりすることだ。


◆目的の抽象度を上げる

そこで個別の目的の抽象度を上げてみる。新しい技術を導入したいという戦略上の目的は、将来において競合に対して優位性を持ちたいということだ。顧客に高い機能を提供したいという目的は現時点で競合に対する優位性を持ちたいこと、そして、顧客満足をえることだ。また、しっかりとプロジェクトをやり遂げたいということも競合への対処、顧客満足の実現という目的だと考えることができる。

そこで、目的を

将来に亘って競合に対して優位性を持つ製品を提供し、顧客を満足させる

と考える。この目的はこのプロジェクトの3つの目的を満たしている。

そして、ポイントはこれを目的とするなら、手段はほかにもあるかもしれないということだ。新技術の導入が次世代の製品への布石だとすれば、ロードマップを描いて2〜3世代をかけて実現していく方法もあるかもしれないし、現行の技術を使ったイノベーションで次世代の製品を実現していく方法もあるかもしれない。もし、そのような方法が見つかれば、当面の顧客満足の問題は解決するだろう。

逆に新技術導入のリスクをとる方法もあるかもしれない。その場合、目的を実現するにはもう一度製品のスペックを見直して、絞り込みを行い、その余裕分を新技術採用によるリスクへの対応に充てるという方法もあるだろう。このような方法は結果として顧客満足を向上する可能性が高い。

このようにプロジェクトの目的を作るときには、分断された目的を並べるのではなく、統合することが重要であり、そのためには目先の具体的な問題だけではなく、広い視座を持つ必要があるといえよう。

そもそも、目的とは概念的なものなのだ。

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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