第18回(2005.03.03) 
プロジェクトマネジメントOSは開発できるか?

◆プロジェクトマネジャーK氏

何回か、プロジェクトマネジメントOS、つまり、PMコンピテンシーは開発できるのか?この問題を考えてみたい。本論に入る前に、PM Magazineの連載に書いたのだが、あるプロジェクトマネジャーの話をしてみたい。

仮にK氏としておこう。K氏は印刷機器の商品開発のプロジェクトマネジャーである。
著者がK氏とであったのは、あるプロジェクトのコンサルティングしたときだ。K氏は15年くらいPMの経験があり、過去にすばらしい業績を残しているらしい。社長表彰も何度か受けている。

新しい知識の習得にも積極的で、最近ではPMBOKを独学で勉強して、自分の経験で説明できるというレベルまで理解していた。当然、組織からの信頼も厚く、今回、戦略商品のプロジェクトのPMに選ばれたのも信頼があればこそだった。

コンサルティングをすぐに、考え方は適切であることがわかり、その能力は見当がついた。おそらく、能力だけでいえば、著者が知っているプロジェクトマネジャーの中でもトップクラスだと思う。経験も、知見もある。

ところが、しばらく様子を見ているうちに、あることに気づいた。確かに、メンバーの動き方や、自分のとるべき行動まで、的を得たことを言うのだが、それに対して、メンバーの行動を支援する行動、あるいは自分自身がこうすべきだと言った行動を実際にしない。たとえば、リスクはチームの主要メンバーが集まってきちんと分析しようとキックオフミーティングで宣言したにもかかわらず、実際には自分だけでリスク分析シートを作ってそれをメンバーに「周知」して終わるといった対応をしていた。

リーダーにこっそりと話を聞いてみたところ、最近、PMを担当したプロジェクトでも同じような傾向があり、メンバーからもそのように見られているとのこと。

あなたの回りにKさんはいませんか?


◆スキルが向上したが、PMコンピテンシーは向上していない

IT系を中心にして、ここ数年で、急速にプロジェクトマネジメント担当者のPMスキルというのは向上してきたように思う。PMBOKに関する理解も進んできたし、また、活用という点でも多くの人が活用している。しかし、一方で、PMコンピテンシーはあまり向上していないように思える。

この連載でしつこいくらい言っているが、PMコンピテンシーというのは能力を表しているわけではない。行動、実践を問うている。つまり、「〜できる」かどうかではなく、「〜しているかどうか」を表すのがPMコンピテンシーである。どちらが重要かというのは組織、プロジェクト、個人(キャリア)などいくつかの視点があるので、簡単には結論できないが、プロジェクトマネジメントの立場からは、能力では不十分である。行動しているかどうかが問題である。

ここで、曲者概念がある。それは、「実践力」なるものだ。これは非常に扱いが難しい。本来はプロジェクトマネジャーの評価は行動で行うべきものだが、実際にはプロジェクトマネジメント行動は機会がないとできない。たとえば、ITスキル標準でよく問題になるように、ピーク時要員50〜100名のSIプロジェクトをマネジメントしているといった場合に、じゃあ、そんな規模のプロジェクトがない企業のプロジェクトマネジャーはどのように評価するのかという問題になる。そこで、実践についてもポテンシャルを表現する概念がほしくなり、それが実践力となる。

ちょっと脱線したが、実践力ではなく、実践でPMコンピテンシーを捉えるとすると、上のK氏はかつてはPMコンピテンシーがあったが、現在はPMコンピテンシーがないということになる。後日談であるが、彼がそのようになっていったのは、実はキャリア的な問題があったためのようだ。ということは、もし、一念発起してがんばると、きっと彼は適切なマネジメント行動をとるようになるだろう。つまり、PMコンピテンシーを持っていることになる。

PMの世界では、PMコンピテンシーはスキルに近い捉え方をされることが多いが、HRMの世界では、キャリアとか、目標管理との関連性が必ず出てきている。K氏の事例を見ていると、やはり、PMの世界でもスキルだけでコンピテンシーを捉えるだけでは不十分ではないかと思う。このあたりに、開発可能かどうかという議論の根底があるように思える。


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