第13回(2004.04.12) 
ZOPA
 

◆ZOPAとは
 交渉はプロジェクトマネジメントにおいてはその成果を決める重要な要素である。特に、顧客との交渉において、表面的なレベルで自分の利益だけを考えていると、自身の目的すら達成できないことになりかねない。どのようなスタンスで交渉を進めていけばよいかを決める際に、ZOPAという考え方がある。
 ZOPAとは Zone Of Possible Agreementを略したもので、日本語では交渉可能価格帯と呼ばれることことが多い。考え方自体はそんなに難しいものではない。例えば、売買をする際に、売り手にも買い手にも交渉可能価格帯がある。この範囲であれば売ってもよい、この範囲であれば買ってもよいという範囲だ。交渉可能価格帯が重なっていなければ、交渉の余地がないことになる。

◆なぜ、ZOPAなのか?
 実際に、ZOPAというのは無意識のうちに考えているものだ。よく「落し処」といった言葉を使うが、これは、ZOPAの中にあって、なおかつ、バランスが取れるポイントというニュアンスである。
 ZOPAを明示的に考えるメリットは、交渉コストである。交渉には莫大な資源が必要になる。時間も、コストも必要であるし、何よりも、準備の時間が大きい。交渉内容に対して、調査を行い、分析を行い、検討をする。この時間が大きい。例えば、ソフトウエア開発の後半に差し掛かって機能レベルの仕様変更の交渉をするとしよう。仕様変更は見方によっては、ZOPAを明確にした交渉である。しかし、その変更に必要な技術の実現可能性、その変更のほかの部分への影響などを分析し、その上で検討しなくてはならない。
 実際には多くの場合、これらの手順を踏まずに、感覚的に交渉を進め、後で調査・分析をすることが多く、交渉時間はかからないが、後でその代替コストを支払っているケースが多い。
 これは別の問題なのでちょっと側におき、では、ZOPAはどのように設定するのか?ということを考えてみよう。よくやるのは
 ・導入済みの技術でできる範囲で
 ・工数変動が5%に収まる範囲で
 ・追加予算が1%以内に収まる範囲で
というように設定することが多い。実際には、これらの範囲の背後には、コストや予算的な範囲の設定がある。

◆ZOPAをプロジェクトマネジメントで応用する
 プロジェクトマネジメントの問題は、交渉ごとに限らず、すべてZOPAだと言ってもよいだろう。計画があるので、ヒラバの交渉になることはまずない。大切なことは、リスクマネジメントと融合して、ZOPAを計画的に考えていくことだ。
 ZOPAのメリットは交渉のコストを抑えることだと述べたが、このことはリスクマネジメントのコストを抑えることに直結する。リスクの場合は、必ずしも交渉ではないケースもあるが、あるリスク事象の幅をどのくらいに設定しておくかを考えるに当たっては、ZOPAを考えてみるのがよい。
 例えば、スケジュールが遅れるというリスクがありそうだとする。リスク遅れの原因はさまざまである。このときに、スケジュールがどのくらい遅れる可能性があるかを想定する。この幅はZOPAになる。それを折り込んで、実際の計画変更を決める。もちろん、遅れそうな時間がすべて許容値ではない。目に見えない相手との交渉になる。あるいは、遅れることによる利益を代表するリーダーと交渉する。

◆ZOPAにとって大切なポイント
 ZOPAを実現していく際に重要なことは、事前の情報収集である。ZOPAというのは言い方を変えると、不測の事態の行動指針なのだ。プロジェクトの計画の中で丹念に情報を収集し、それに基づいた行動ができることがZOPA実現への第1歩である。


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