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第13回(2002.07.20) 
コミュニケーションについて考える
 

プロジェクトマネジメントではコミュニケーションが大切である.プロジェクトマネージャーに聞いてもメンバーに聞いてもそのように言うであろう.しかし,そんな当たり前のことがなかなかできない.なぜだろうか?

◆コミュニケーションの阻害要因
 プロジェクトでコミュニケーションを阻害している要因はいろいろある.PMIから出版されている書籍で,「The Human Aspects of Project Management」という3冊のシリースがある.著者はすべてVijay K. Vermaというプロジェクトマネジメントのプロフェッショナルである.このシリーズは名著であるのでプロジェクトマネージャーの方にはお奨めである.前置きが長くなったが,このシリーズの第2巻が「Human Resource Skills for the Project Manager」というタイトルである.Vermaがこの本の中でコミュニケーションの阻害要因を整理している.たいへん興味深いのですべて挙げると,
 ・情報不足,情報過多
 ・オープン性の欠如,信頼の欠如
 ・タイミングの悪さ
 ・聞きたい情報だけを聞く(Hear What You Expect hear)
 ・情報リンクの数(情報経路の複雑さ)
 ・先入観
 ・解釈の相違
 ・偏見(フィルター)
 ・ボキャブラリー
 ・文化の相違
 ・知識レベルの相違
 ・個人の認識とパーソナリティ
 ・ジェラシー
の13個である.これらをすべて潜り抜けて望ましいコミュニケーションを実現することにより初めてプロジェクトの目的を達成することができるとしている.この本ではこれらの問題に対するVermaの解決の方法が提示されているが,それを知りたい方は本を読んでいただくとして,ここでは著者なりのコメントを加えることにする.

◆阻害要因の分類
 コミュニケーションの阻害要因はVermaのものを見ても分かるように
 ・マネジメントに起因する問題
   タイミング,情報リンク数,情報不足/情報過多,聞きたい情報だけを聞く
 ・チーミングに起因する問題
   オープン性,解釈,フィルタリング,ボキャブラリー,文化,知識レベル
 ・PMやメンバーの個人的特性に起因する問題
   先入観,個人の認識,ジェラシー
に分けることができる.

◆マネジメントの起因する問題の解消
 このうち,マネジメントの起因する問題は,コミュニケーション計画を注意深く行うことによって解消できる.つまり,計画の時点でプロジェクトで必要だと思われるコミュニケーションをすべて想定し,それぞれのコミュニケーションのルール(ルート,手段,方法,報告基準など)をすべて明確に決めておくことにより解消されるだろう.中でも重要性が高いのはミーティングマネジメントであるが,これについては別の機会に解説する.

◆チーミングに起因する問題の解消
 やっかいなのではチーミングに起因する問題である.これはチーミングそのものの問題だと言ってもよいだろう(ここでは,ラインでプロジェクト業務を遂行する場合ではなく,プロジェクトチームを作ってプロジェクト業務を遂行する場合を想定しているでの混乱のないようにして欲しい.前者も当然プロジェクトである).
 チーミングの難しさは,プロジェクトがそれまで全く知らなかった人が集まってきて,いきなり仕事を始めなくてはならないところにある.ライン組織であれば,組織としてなじんだところで本来の力を発揮するといったことが許されるのだろうが,プロジェクトでは許されない.こんな状況で,例えば,オープンマインドを持つといったことは非常に困難であるし,さまざまなことに関する解釈の違いも当然である.Vermaの分析は米国のプロジェクトの分析であるが,日本でもプロジェクトは国際化してきており,文化的な相違,宗教的な相違,言葉の問題などの発生も珍しくない.また,現実に大きな問題になっているのは知識レベルの差である.チーミングに対してはプロジェクトチャーターや組織運用のルール作りなどのハード的な手段とともに,プロジェクトマネージャーのリーダーシップの発揮や,それに基づくチームの文化の構築などのソフト的な手段が不可欠である.この際に,個人の思想信条に影響を与える文化の相違は,チームの文化として吸収していく必要がある.

◆プロジェクトではなく,組織の問題として捉える
 では「どうやって」という話になるが,チーミングがやっかいなのはここである.プロジェクトでは,チームが組織され,プロジェクト作業を行い,終われば解散する.この期間が長ければ長いほど,何がしかの文化が出来上がることになる.一つのプロジェクトでいきなりテンションを上げ,ある文化を創るのはPMの資質に依存する部分は多いが,可能である.ところが,チームが解散すれば文化も霧散し,また,次に一から文化を構築しなおすことになる.するとプロジェクトはいつまでもPMの個人の特性にまかせた文化で運用されることになる.ややもすれば,このこと自体がコミュニケーションの阻害要因になりかねない.
 ここで重要なことはプロジェクトマネジメントを組織(企業)の問題として捉えることである.理想を言えば,どのプロジェクトも結成されたときには同じ文化があることであるが,難しいのは,違う文化を求めるためにプロジェクトとして行う業務も多いという点である.この問題の解としてプロジェクトマネジメントの組織成熟度をあげていくという議論が出てきているが,これについては別の機会に紹介する.

◆個人の特性に起因する問題
最後に個人の特性に起因する問題であるが,これは自己変革を促していくしかない.プロジェクトに参加する各自がキャリアを適切に見定め,それに相応しいスキルを身につけていくことが唯一の解決策である.このために組織ができることは,例えばコンピテンシーマネジメントを行い,これらのスキルをコンピテンシーとして整理し,個人の学習の支援をしていくといったことであろう.

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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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