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第14回(2002.07.28) 
チームビルディング
 

◆専門性とチーム
 プロジェクト組織を作る場合にはどうしてもタレントの豊富さとか専門性のバランスといった物理的なチーム編成に目が行ってしまう.もちろん,これらの要件は不可欠であるが,それだけでは決してプロジェクトはうまく行かない.タレントが豊かであったり,あるいは専門性が高い人が集まれば仕事は簡単に成功すると思いがちであるが,それは個人レベルの話であって,チームとして成功するのはむしろ難しくなるといっても良いだろう.簡単にいえばチームとしてまとまらない.専門性やタレントはTPOが合って初めて有効に機能するが,各人がばらばらに動いているとそれらを発揮すること自体が難しくなる.たくさんの専門家やタレントを抱えて成功しているケースには必ずといってよいくらい,プロジェクトマネージャーの卓越したチーム運用があるものだ.特に最近では,プロジェクトの制約として人が大きくなってきている.つまり,「この仕事はあの人しかできない」というプロジェクトが増えてきており,そのような中でプロジェクトを成功させるには,逆にチームとして如何にうまく動かすかというのが従来にも増して大切になってきている.

◆チームビルティングとは何か
 通常,プロジェクトにおけるチーム編成のプロセスは,メンバーリングと,チームビルディングの2つの分けて考えることが多い.メンバーリングはあの人とあの人にプロジェクトに参加してもらおうという選抜である.つまり,作業グループを作る.
 ところが,これだけでは単なる寄せ集めに過ぎない.例えばサッカーのナショナルチームを考えてもらえば分かるだろう.一人一人,それぞれのポジションのスペシャリストで優れた選手であるが,これがチームとして機能するようにして初めて戦うことができるようになる.つまり,チームとしてのポリシーをつくり,戦術を決め,また,人間的にもお互いに理解しあうといったプロセスが必要になる.これがチームビルディングである.一般的に言えばチームビルディングは集めてきた「グループ」を,「チーム」として機能するようにすることである.

◆チームビルティングとキックオフミーティング
 実際のチームビルディングの方法としては,まず,キックオフミーティングを行うことである.キックオフミーティングで行うべきことは
 (1)プロジェクトマネージャーの自己紹介
 (2)プロジェクトマネージャーからプロジェクトの概要を説明する
 (3)メンバー一人一人の自己紹介
 (4)プロジェクト憲章の宣言
    プロジェクトのルール,シェアド・バリューの宣言
の4つであろう.
 さらに,シェアド・バリューについてはプロジェクトのいろいろな場面で繰り返し確認し,チームに定着させていく必要がある.

◆プロジェクトルールとして決めるべきこと
 プロジェクトルールとして決めるべきことはケースバイケースであり,一般論は難しいがあえて設定するとすれば
 ・情報管理に関するルール
 ・ミーティングに関するルール
 ・コミュニケーションに関するルール
の3つである.

◆ルール作りのポイント
 情報管理については特に情報ごとのセキュリティ規定が肝要である.チームビルティングの基本は情報の共有であるといってよい.プロジェクトチームとしてすべての情報を共有できて初めて,ビジョンやゴールを共有できる.そのためには,セキュリティを明確に決定し,できるだけ多くの情報を共有できるように心がける.セキュリティルール作りは,プロジェクトで発生するさまざまな情報を予め分類した上で,ステークフォルダに対してどのような情報開示を行っていくかというを決定していく.
 ミーティングについては,ミーティング開催要領を明確にしておくことが重要である.ミーティングはプロジェクトの生命線を握るものであるので,開催頻度,開催通知方法,準備内容などをルール化しておき,プロジェクトミーティングの円滑運用を図る.
 コミュニケーションについては洗い出した情報に関して,それぞれの情報を誰が作り出し,どういう方法で,どういうタイミングで伝達していくかという視点でコミュニケーションの設計を行う.

◆シェアド・バリュー
 シェアド・バリューというのは文字通り共有すべき価値観である.価値観の共有にはさまざまな方法があるが,プロジェクトが時限的な組織であることを考えると,最も重要なことはビジョンを明確にすることである.
 ではプロジェクトにおけるビジョンとは何かということだが,これは具体的な成功イメージだと考えるべきである.プロジェクトがうまく行けばどんなものができるのか,あるいはどんなサービスを顧客に提供できるのかをできるだけ明確にする.経営組織におけるビジョンにように抽象度の高いものではメンバーに対する訴求性に欠け,ビジョンとして機能しない場合が多いので注意する必要がある.例えば顧客を満足させるというビジョンであれば,顧客の具体的な業務を思い浮かべ,このプロジェクトの成果を利用して顧客が嬉々として仕事をしている様子まで落とし込むべきである.ただし,それをプロジェクトの立ち上げ時に行うことが難しい場合も多く,また,継続性も必要である.従って,プロジェクトマネージャーを中心にして,機会あるごとにそのようなことをメンバーで話し合い,確認しあいながら進めていくことが大切である.

◆チームビルディングの両輪
 ルールとシェアド・バリューがプロジェクトにおけるチームビルティングの両輪である.この両輪が揃ったときに初めて,高い専門性や豊富なタレント性がプロジェクトの推進力になることをわすれてはならない.


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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