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第16回(2002.08.09) 
プロジェクトマネジメントが成熟するとは?(後)
 

 前回はソフトウエアプロセスの成熟度CMMについて述べた.今回はその続編で,プロジェクトマネジメントの成熟度について考えてみたい.

◆PMI(R)のプロジェクトマネジメントの成熟度モデル
 では,次にプロジェクトマネジメントの成熟度について考えてみたい.PMI(R)でも2003年12月を目処にPMBOKのマネジメントプロセスを対象した成熟度モデルOPM3(Organizational Project Management Maturity Model)を研究を進めている.まだ,最終的なものではないが,すでに公開されている内容を要約して紹介すると,以下のようなものである.(※いくつかの一般公開資料からまとめている)

レベル1:プロジェクトマネジメントのプロセスについて公式に標準化されたものはなく,プロジェクトの成功は個人の努力に大きく依存するため,プロジェクトの成功を予測することは不可能である.

レベル2:プロジェクトマネジメントに対するシステマティックなアプローチと,プラニング,スケジューリング,モニタリングは実施されている.しかし,それらはチームとして行われているにとどまり,組織として統合されるにはいたっていない.従って,プロジェクトの成功は予測不可能である.

レベル3:組織としてのプロジェクトマネジメントの標準的なアプローチが存在する.標準的なプロジェクトマネジメント体系はドキュメント化され,管理プロセスとして具体化されている.それらを通じてプロジェクトデータが収集され,プロジェクトは可視化される.また,プロジェクトの成功はある程度の正確さをもって予測可能である.

レベル4:同時に進行する複数のプロジェクトにおいて,個々のプロジェクトの情報が再処理や変換されることなく統合されたマネジメントレベルの情報を生み出す.個々のプロジェクトのマネージャーはそれらの情報を把握しており,組織として複数のプロジェクトのマネジメントが統合的に行われる.

レベル5:プロジェクトマネジメントはその組織が置かれている環境に適応して,継続的に改善され,常に最適化されている.その結果,リソースの最適化が,プロジェクトレベルではなく,組織レベルで可能になる.

◆MicroFrameの提唱するモデル
 これに先行する形でベンダーからいくつかの提案がされている.ここでは,その中で代表的な存在であるMicroFrame Technologies & Project Management Technogiesのモデルについて紹介する.このモデルは,PMI(R)の機関誌である PM Network magazine 1997.6 に発表されたものである(なお,日本語は著者によるものであるので,原文をご覧になりたい方は http://wwwpm3.com を見て戴きたい)
 このモデルも5段階モデルである.少し,長くなるが紹介しておこう.
レベル1:場当たり的(Ad-Hoc)
 場当たり的なプロジェクトマネジメントの実践でプロジェクトの成否は個人の能力に依存している
レベル2:概略定義された(Abbreviated)
 いくつかのプロジェクトマネジメントプロセスにおいてはコスト,スケジュール効率を追跡するシステムが確立されている.原則も存在しているが,みんなに理解されてはいないし,全体としての一貫性もない.プロジェクトの成功は大部分は予測できず,コストとスケジュールの問題を標準的に抱えている.
レベル3:組織化された(Organized)
 プロジェクトマネジメントのプロセスとシステムはドキュメント化され,標準化され,さらに全社的に統合されている.プロジェクトの成功はより予測可能になり,コスト,スケジュール効率が改善される.
レベル4:管理された(Managed)
 プロジェクトマネジメントの有効性の詳細な計測が集約され,マネジメントに利用されている.プロセスは理解され,コントロールされている.プロジェクトの成功はパターン化され,コスト,スケジュール効率は計画通りになる.
レベル5:適応できる(Adaptive)
 プロセスからのフィードバックや,革新的アイディア,技術からのフィードバックにより,プロジェクトマネジメントプロセスの継続的改善が可能になる.プロジェクトの成功は当然のことになる.コストやスケジュールの効率は継続的に改善される.

 他のモデルを見ても,5段階であることは一緒で,例えば,Harold Karznerの提唱しているPMMM(Project Management Maturity Model)では,共通言語,共通プロセス,共通の方法論,ベンチマーキング,継続的改善の5つのモデルになっている.

※PMMMについては以下の文献に詳細に解説されている.
Strategic Planning for Project Management Using a Project Management Maturity Model

◆どの領域を評価の対象にするのか
 プロジェクトマネジメントの成熟度に関するもう一つの問題は,このような成熟度をどの対象に適用するのかということである.CMMでも同じ問題は存在するが,CMMはソフトウエアプロセスが対象であるため,適用領域は,品質,コスト,納期が中心であることは比較的納得しやすい.しかし,プロジェクトマネジメントは元来,対象範囲が広く,どこが成熟すればプロジェクトマネジメントとして,成熟した状況になるかは大きな問題である.例えば,PMBOK(R)であれば,9つのマネジメント領域がすべて成熟度の評価の対象になるのであろう.ちなみに,上に紹介したMicroFrameのモデルでの評価対象領域は
 ・リーダーシップとマネジメント
 ・プロジェクト成果の管理
 ・問題,リスクの管理
 ・複数のプロジェクトのマネジメントの仕組み
 ・マネジメント情報
 ・マネジメント方針,手順
 ・データ管理
 ・教育とトレーニング
の8つでとしている(詳細はこちら).

◆プロジェクトマネジメントの成熟度の捉え方
 プロジェクトマネジメントの成熟度が何かと考えてみると,成熟度の概念そのものは先のソフトウエアプロセスの成熟度の概念とあまり変わらない.
 ・共通のマネジメントプロセス
 ・共通のツール(IT,メソロジー)
 ・学習する人間系
 ・学習する組織文化
の4つだと思われる.
 ところが,どのように成熟していくが,つまり,成熟度のレベルをどのように取るかについてはこれはアプリケーションによってかなり異なるのではないかと思われる.例えばMicroFrame Technologies & Project Management Technogiesの場合,エンジニアリング系のプロジェクトの成熟度を向上させていくには納得性のあるプロセスであるが,では,コンサルティングプロジェクトのマネジメントをこのようなレベル設定で成熟させていくことができるかというと少し疑問である.
 プロジェクトマネジメントプロセスと,ソフトウエアプロセスの本質的な違いは,目的の違いであると思われる.ソフトウエアプロセスは一種のモノ作りのプロセスであり,当然,コストとスケジュール効率,品質の改善が成熟の大きな目的になるが,プロジェクトマネジメントの場合には一概にそうはいいきれない部分がある.むしろ,コスト,スケジュール,成果のクオリティの3つのトレードオフの方が問題になる可能性があり,そのトレードオフによって成熟度の概念が決まってくるようにも思える.
 さらに言えば,エンタープライズプロジェクトマネジメントになると,経営品質の議論になってきて,そもそも成熟度という概念が成立するのだろうかという疑問がある.
 話が発散してしまったが,プロジェクトマネジメントについては,エンジニアリング系などのマネジメント目的の明確な分野を除くと,そもそもマネジメントプロセスが成熟するというのはどういうことなのかということを考える段階にあるといってもよいだろう.


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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