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第17回(2002.08.17) 
リーダーシップ考(1)
 

◆コンピテンシー
 今回から数回,プロジェクトマネージャーのリーダーシップについて考えてみたい. 昨今,プロジェクトマネージャーのコンピテンシーモデルの議論が盛り上がっている.コンピテンシーそのものの議論は,また,別の機会に譲るが,すでにいくつかの国のプロジェクトマネジメント協会ではコンピテンシーモデルの開発が行われ,その利用方法が模索されているし,PMI(R)でも来春を目処にモデルの開発が行われている.この中で,リーダーシップは重要な問題になってきている.

◆PMのリーダーシップのイメージ
 プロジェクトマネージャーのリーダーシップのイメージというと,不確実な状況の中をプロジェクトの先頭に立ちチームを引っ張っていくイメージとか,包容力を持ち,ステークフォルダーとの調整を一手に引き受け,メンバーはプロジェクト作業に集中できるようにするといったイメージを思い浮かべる人が多いであろう.実際,大きなプロジェクトの成功者の話を聞くと,このようなリーダーシップが不可欠なことは間違いない.

◆リーダーシップはどんなプロジェクトでも普遍?
 では,CRM(Custmer Relationship Management;顧客との関係をきちんと情報管理し,それを積極的に営業やマーケティングに使っていくマネジメントの手法)のシステムの導入による顧客満足度向上を行うプロジェクトを考えてみよう.そのときのプロジェクトマネージャーは,上に述べたようなリーダーシップを持っていればよいのだろうか?読者の中にはそうだと思われる方も多いと思うが,少なくとも著者が知っている範囲ではそのようなリーダーシップだけでは成功は難しいようである.なぜだろう?
 この疑問を解く鍵は,プロジェクトの性格にあると思われる.今回はリーダーシップの議論の前提になるプロジェクトタイプについて整理してみる.

◆プロジェクトのタイプ
 芝安曇×小西喜明氏は「プロジェクトマネジメント実践講座」の中でプロジェクトのタイプを「目的」に注目して3つに分けている.プラント建設にようにプロジェクトの目的が明確であるもの(目的明確型),情報化や経営革新のように目的を達成する条件が不明確なままに進めるもの(目的不明確型),学術研究のように面白いことを探すというところから進めていくもの(目的探求型)の3つである.目的明確型と探求型は分かると思うが,不明確型については少し説明をしておこう.上の例で,顧客満足度の向上を目的と考えた場合,顧客の欲しがるものはすべて作り,顧客の望む価格で販売するという解決策がある.しかし,これは現実的ではない.そこで,「現在の商品ラインナップを変えない」で顧客満足度を上げるにはどうすればよいのかを考える.「現在の商品ラインナップを変えない」の部分が条件である.このように,目的を達成するに当たって満たさなくてはならない条件は,情報化や経営革新ではプロジェクトの進行とともに明確になってくることが多い.このようなものがプロジェクトの性格である.

◆プロジェクトの目標の種類
 また,宮田秀明氏は「プロジェクトマネジメントで克つ」の中で,プロジェクトにおける目標には,合理的計算型,ビジョン駆動型,ランダム試行型の3つのパターンがあると述べている.例えば,CRMの例で言うと,「CRMを導入して商談成約確率を2倍にする」というプロジェクト目標は合理的計算型である.これに対して,「当社は一旦取引関係のできた顧客とは生涯に亘るお付き合いをする企業を目指す.そのためにCRMを導入する」というプロジェクト目標はビジョン駆動型である.ついでにいえば,「当社は設立30周年を迎える.ついては何か新しい取り組みをしよう」というのがランダム試行型と呼ばれるものである.

 もう,お気づきだと思うが,この目標の区別は芝安曇×小西喜明氏のプロジェクトタイプの区別と対応している.目的明確型=合理的計算型,ビジョン駆動型=目的不明確型,ランダム試行型=目的探求型である.芝安曇×小西喜明氏の表現はプロジェクトの性質であり,宮田氏の表現はアプローチである.重要なことはプロジェクトというのは「目的」あるいは「目標」で大きく性格が変わってくることである.

◆エンジニアリング,マネジメント,リサーチ
 実は,戦略ノートの第8回で,プロジェクトのタイプをエンジニアリング型とマネジメント型と区別したが,これもちょうど,エンジニアリング型=目的明確型,マネジメント型=目的不明確型,あるいは目的探索型という対応をしている.ここでは,マネジメント型をさらにマネジメント型とリサーチ型に分けることにする.すると,目的不明確型と目的探索型に対応する.プロジェクトのタイプという場合,だいたいこの3つを考えればよいだろう.

◆リーダーシップには複数の種類がある
 さて,このように整理していくと,プロジェクトマネージャーに必要なリーダーシップが一種類ではないことはすぐに分かる.冒頭に上げたリーダーシップのイメージは,典型的なエンジニアリング型のプロジェクトで必要なリーダーシップに過ぎない.このようなリーダーシップだけでは,マネジメント型のプロジェクトやリサーチ型のプロジェクトのマネジメントは難しいだろう.

 では,どういうリーダーシップが必要かという議論に入っていくわけだが,今回はここまでにしておき,さらにもう一つ問題提起をしておく.

◆リーダーシップとマネジメント
 組織論で言われるところのリーダーシップとは「変革を成し遂げる力量」のことである.これに対して,マネジメントとは複雑な環境にうまく対処してものごとをうまく進めていく術である.最近の企業経営でリーダーシップに注目が集まっている理由は,例えば,ITなど技術革新のスピードが速くなり,今までのやり方を大胆に変えていかなくては対応できないからである.

 ところが,プロジェクトマネジメントというのは「マネジメント」であるが,そのような環境の変化に対して「マネジメント」として変革を進めてしていこうという明確な意図がある.これは合理的計算型のエンジニアリングプロジェクトでも例外ではない.例えば,新しい工法が出てきて,その工法を採用すれば,プラントの稼動年数が延びるとしよう.このような場合,その工法の専門家をプロジェクトに加え,計画を変更し,新しい工法で工事をするだろう.つまり,自らの組織を変え,計画を見直し,新しい計画でアクションをするという変革をしているのだ.この一連の行動の中には,マネジメントによる部分とリーダーシップによる部分が含まれているように思える.

◆プロジェクトマネジメントではマネジメントリーダーシップの位置づけが重要
 ところが,現在のところ,マネジメントがどのような役割を果たし,リーダーシップがどのような役割を果たすのかが不明確なままで,リーダーシップの議論がでてきているように思える.リーダーシップは適切なマネジメントがあって初めて意味を持つ.極端な例をあげれば,進捗管理をしていないプロジェクトでいくらPMがリーダーシップを持っていても砂漠に水をまくようなものであろう.そう考えると,マネジメントとリーダーシップをどのように位置づけは,リーダーシップの議論をするに当たっては大変重要なものである.この点についても考えて見たい.


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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