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第18回(2002.08.25) 
リーダーシップ考(2)
 

◆マネージャーとリーダー
 さて,今回からリーダーシップとは何かという議論に移りたい.
 前回の最後にリーダーシップとマネジメントの位置づけが大切であるという話をしたが,ここでは,マネジメントとの対比でリーダーシップを考えていくことにする.プロジェクトでもやはり,プロジェクトマネージャーとプロジェクトリーダーという両方の役割がある.そんなに厳密な区別があるわけではないようだが,総じて言えば,プロジェクトマネージャーという場合には計画まで策定し,プロジェクトリーダーという場合には計画は別にいるプロジェクトマネージャー策定し,その計画を実行するリーダーというケースが多いようである.マネジメントとリーダーシップの違いは基本的にはこの違いである.

◆マネジメントとリーダーシップのミッション
 前回,マネジメントの役割は複雑さへの対処であり,リーダーの役割は変革の推進であると述べた.これは経営活動を想定した言い方なので,プロジェクトへのリーダーの役割はむしろ,予期しない事態におけるメンバーの牽引であると言った方が分かりやすいかもしれない.
 さて,問題は複雑さや牽引をどのように行っていくかであるが,その前にミッション(すべきこと)を整理しておこう.マネジメントもリーダーシップもミッションそのものが大きく違うわけではない.大きく言えば
 (1)課題の特定
 (2)課題の実現
 (3)課題の達成を実現するための環境作り
の3つが双方のミッションだと考えて良いだろう.(3)は少し分かりづらいかもしれないが,例えば,課題達成に必要な人的ネットワークを構築するとか,ステークフォルダの関係を構築するといったミッションが主である.

◆マネジメントの手段
 マネジメントとリーダーシップが異なるのは,これらのミッションの実現方法である.マネジメントの場合には「計画」により実現していく.これはプロジェクトマネジメントの基本的な作業そのものである.まず,プロジェクト課題を特定し,課題達成に必要な作業を洗い出し,マイルストーンを決め,要員計画を行い,スケジュールを作り,予算を策定するという一連のマネジメント作業を行うことにより,計画がうまく実行されることを目指していく.

◆リーダーシップの手段
 これに対して,リーダーシップの場合には,まず,進むべき方向を示すというのが重要になる.そのプロジェクトのビジョンであり,憲章であるといってもよいだろう.ビジョンの生命線になるのは,ステークホルダの利益に如何に資するかということと,そのプロジェクトの目的を如何に達成できるかということに尽きる.その上で,次にそのビジョンを達成する「戦略」を策定し,その戦略をメンバーで共有することによって,メンバーのベクトルを合わせていく.リーダーシップ研究のオーソリティであるジョン・コッターはこれを「人心の統合」と呼んでいるが,メンバーが心を一つにして同じようにビジョンを理解し,同じ方向を向いて進んでいくように仕向けるのがリーダーシップである.

◆手法
 では,そのためにどのような手法をとるのか.マネジメントの手段は「コントロール」と「問題解決」である.計画に対して,進捗報告を求め,予実管理を行い,ギャップがないかどうかを確認する.そして,ギャップがあれば,そのギャップを埋めるための問題解決を行うという手法が一般的である.
 これに対して,リーダーシップの手段は一般的認識では「動機付け」と「啓発」である.この2つの言葉を使ったのはジョン・コッターであるが,ジョン・コッターはこの2つの手段の使い方を「価値観や感性という根源的であるが,往々にして眠ったままの欲求に訴えかけることで大きな障害を乗り越え,正しい方向に導く」と表現している.

◆コミュニケーションが大切
 マネジメントとリーダーシップの役割分担はさまざまな良く面で発生する.それは,チームを編成するときにも発生するし,プロジェクト遂行の局面でも発生する.しかし,さまざまな場面に共通したポイントがある.
 マネジメントでは計画とコントロールの巧拙が結果の優劣を決定する.これに対してリーダーシップの巧拙は大部分はコミュニケーションで決まってくる.如何に多くの人とコミュニケーションを図り,ビジョンを理解して貰い,なおかつ,受け入れてもらうかが最大の問題になる.なおかつ,この作業はマネジメントとは独立に行われなくてはならない.管理者としてではなく,ひとりの人間として,メンバーやステークフォルダの価値観に訴えかけ,達成感,自尊心,認められたい気持ち,プロジェクトや組織に対する帰属意識,キャリアへの欲求など,ありとあらゆる欲求に訴えかけていき,ビジョンを自身の問題として捉えさせることが重要である.ビジョンをマネジメントによりメンバーに受け入れさせようとするプロジェクトマネージャーをしばしば見かけるがこれではリーダーシップは確立できないだろう.

◆マネジメントとリーダーシップのバランスについて
 違いは以上のようなものであるが,次の問題はバランスである.前回議論したプロジェクトタイプに依存してくる部分である.多くの読者の方は抵抗があるかもしれないが,リーダーシップだけで進めていくプロジェクトというのも現実にはある.例えば,Linuxに代表されるオープンソースソフトウエアの開発などはその典型的な例であるし,一般企業に目を移しても,スカンクワークで行われてきたプロジェクトの多くはリーダーシップでドライブされている.
 プロジェクトにマネジメントが必要になるのは,経営的な位置づけが明確になった場合である.その中でのバランスがプロジェクトの性格によってくる.エンジニアリングタイプのプロジェクトでは課題の複雑さが最大の問題になるケースが多い.従って,マネジメントの方が相対的に重要になってくる.マネジメント系のプロジェクトの多くは計画は「目標」としての意味合いが大きい場合が多く,如何にメンバーが自発的な動きをできるかで目標達成度合い,つまり,成果が変わって来る.例えば,経営革新がそうであるし,商品開発もそのような性格を持つ.このような場合には,最低限のマネジメント+最大限のリーダーシップというミックスが望ましいだろう.その究極にあるのがイシューマネジメントである.この具体的手法については,別途議論したい.

◆動機付けと啓発の具体的方法
 次回は動機付けの具体的方法について解説する.

◆参考資料
ジョン・コッター「What Leaders Really Do」,ハーバード・ビジネス・レビュー(1990)
ハーバード・ビジネス・レビュー「リーダーシップ」,ダイヤモンド社(2002)に収録.


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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
20年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料)」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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